第27回大会レポート

                     大会レポート
             第27回日本綜合医学会関西大会
            「原発のない健康社会を目指して」
               ―放射線被ばくの真実―
                                     血液循環療法協会会長 理事 大杉幸毅
 2016年10月2日大阪朝日生命ホールで行われた。冒頭、小山登大会運営委員長、そして福原宏一学会頭の挨拶があった。参加者は例年より少なかったものの、参加者からは中身が濃く聞きごたえのある有意義な講演会だったと、大変好評であった。出来たらもっと多くの人に聞いてもらいたいマスコミでは伝えない生の情報である。今回、学会員の参加が少なかったのは残念である。「放射能汚染は私には関係ない」「福島の原発事故はもう終わった」「綜合医学会とは関係ないテーマだ」などと思っておられるのか。しかし、それは政府が「放射能被ばくの真実」を隠匿してオリンピックを誘致し、誘致決定後はマスコミが放射能汚染問題を一切報道しなくなったからではないだろうか。一般国民には真実を知らされてないだけなのだ。健康を守るための貴重な情報を得る機会を作ったのに、「聞かざる」という態度では学会に参加している意味がないであろう。疾病や健康に関する真実の情報を究明し、国民に啓蒙して病気の予防と健康に寄与するのが日本綜合医学会の使命ではないだろうか。
大会は3部構成で、午前中の第1部がチェルノブイリ原発事故から30年経ったウクライナでの健康被害の実態の調査と支援活動を4年前から継続中の「食品と暮らしの安全」小若順一代表の報告と支援活動の一環としてボランティア治療を行った筆者の報告。続いて山口康三理事長の「少食健康法」の講演があった。第2部は午後から放射線専門医の西尾正道氏(国立北海道がんセンター名誉院長)が放射線医療の臨床的体験に基づく知見から放射線被ばくの健康障害について、次に槌田 劭氏(使い捨て時代を考える会相談役)が文明社会の問題点とフクシマ後の行き方についてご自身の体験を交えながらわかりやすく講演された。休憩後第3部のパネルディスカッションが行われた。
特に印象的であったのは、西尾氏の講演で指摘された 1)内部被ばくによる健康障害が過小に評価されている実態 2)鼻血の原因 3)放射線の影響は癌や白血病だけでなく、すべての慢性病、生活習慣病に関与する 4)原発事故が起きなくても原発周辺でがんや白血病が断トツに増加しているデータ 5)放射線と毒性化学物質(農薬など)との多重複合汚染による健康被害の報告 6)ネオニコチノイド系農薬の発達神経毒性により自閉症、アスペルガー症候群、発達障害などの増加は子供だけでなく大人にも出ている 7)無意味な子宮がんワクチンの危険性などである。
第1部チェルノブイリに学ぶⅠ
「極低線量汚染地域でも健康障害が出ている」
小若氏の講演概要
福島第一原発事故後、日本ではどんな被害が出るのか知るために2012年にウクライナに取材に行ったら、年間被ばく1ミリシーベルトの極低線量汚染地域でも子供たちの健康被害が出ていることを知り驚いた。(日本では20ミリシーベルトまで帰還できる)そこで汚染を減らし良くなるかどうかの調査をした。まず保養をしたら54日間で良くなり、次に食品汚染を減らしたらよくなり、更に畑に化学肥料を投入したら良くなり、放牧の牛に穀物肥料を食べさせて牛乳の汚染を減らしたらよくなった。調査をしたモジャリ村は土壌汚染のレベルは1Kg当たり127ベクレルで健康被害が出ている。新宿は500ベクレル、福島の農地は3000ベクレルである。我々の支援活動は民間レベルの小さなものだが、現地の記者は4000人を良くしたと報道している。今年4月に安倍首相がウクライナを訪問した時、ポロシェンコ大統領は日本政府の2000億ドルの支援に謝辞を述べたが、同時に我々の支援活動「日本プロジェクト」にも謝辞を述べたが、総理も大使館も民間の活動の成果に気づいていなかった。
「健康障害の子供たちの治療」
筆者の講演概要
 血液循環療法という手技療法の特長を説明した後、一昨年チェルノブイリの放射線障害の四肢麻痺で歩けなかった子供を血液循環療法で歩けるようした療法士を紹介し、ウクライナでの治療の様子をスライドと動画で紹介した。氏の療法で治療したすべてで効果を上げ、今後起こるであろう放射線被ばく健康障害も血液循環療法で対応できると述べた。
第2部 放射線被ばくの真実

「放射線被ばくと健康障害」
西尾氏の講演概要
 昔は労働力が富の源泉であったが、産業革命以降の現代は科学技術、情報が富の源泉になっている。その情報の負の部分が隠されている。その中でも人工放射線の影響の研究が疎かにされ、核を利用して利益を生む国際的「原子力マフィア」ができ、人類の命と健康よりも、多大な利益を優先している。放射線内部被ばくの健康被害の問題がICRP(国際放射線防護委員会)の疑似科学で誤魔化され健康被害が過小評価されているのは大変な問題である。ヒロシマ・ナガサキ原爆投下後の残留放射線はないとして内部被ばくを隠匿し、その延長線上に放射線防護学を構築した。ICRPは単なる民間のNPO団体で国際的原子力推進勢力から膨大な資金援助を受け、原子力政策を推進する国際的な「原子力ムラ」の一部である。このため多くの医学論文で低線量被曝による健康被害が報告されても反論できず、すべて無視する姿勢をとっている。日本でもICRPに関与したり、その報告に詳しい学者が有識者と称して政府の委員会のメンバーとなり政策に関わっている。また、医療関係者の教科書もICRP報告の内容で記載されているため、今回の事故でも多くの医師たちには問題意識が生じないのである。
「外部被ばくはまきストーブにあたって暖をとること、内部被ばくはその燃え盛る“まき”を小さく粉砕して口から飲み込むこと」に例えられるが、どちらが危険かは誰でも理解できるであろう。さらに、内部被ばくの線量評価に関しても過少評価する取決めも行っている。ICRPは「線量が同じであれば、外部被ばくも内部被ばくも同等の影響と考える」と取り決めているが、ここでは被ばくしている細胞や組織の線量分布が全く考慮されていない。放射線は基本的に被ばくしている細胞にしか影響は出ない。粒子線であるα線・β線では飛程が短く、周囲の細胞にしか影響せず、また近傍周囲の細胞に全エネルギーを付与するため影響は大きい。空間的線量分布を考慮せずに、限局した範囲の細胞の線量を、臓器(等価線量)や全身の細胞数で全身化換算(実効線量)することはできないのである。この線量評価の誤魔化しを例えると、「目薬は2、3滴でも眼に注すから効果も副作用もあるが、この2、3滴の量を口から飲ませて、投与量は非常に少ないので心配ない」と言っているようなものである。
 そして福島原発事故後はセシウムホットパーティクルとも言える放射性微粒子の存在が確認されており、健康被害の本態に迫る知見が報告されている。これは「長寿命放射性元素体内取込み症候群」としての健康被害の原因となる。鼻血の原因は、鼻粘膜に放射線微粒子が付着してやけどするからだ。海洋汚染では、生物濃縮により大型魚では何万倍という量を取り込むことになる。原発周辺では、事故にならなくても多くの健康被害が出ている。ドイツでもアメリカでもそうだ。現に、北海道泊原発周辺の泊村では、がんの発症が設置前は22位だったものが1位になった。玄海原発周辺の玄海町と唐津町では稼働10年後に白血病が急増して高止まりになっている。これはトリチウムの作用である。大阪大学の野村大成先生の実験結果では、放射線と各種毒性化学物質のとの大規模な多重複合汚染による健康被害が問題となる。自閉症、アスペルガー症候群の増加もネオニコチノイド系農薬の脳や神経への発達神経毒性が指摘されている。また、8,000ベクレル/kg以下の除染土を全国の公共事業に使用するような不見識な政策で「一億総被ばく国家プロジェクト」が進んでおり、日本人の健康問題が憂慮される。
「文明社会の未来とフクシマ後の生き方」
槌田氏の講演概要
太平洋戦争からヒロシマ・ナガサキの被曝、敗戦、食糧難、科学の進歩が明るい未来を作ると信じて科学者になった。しかし、地球資源を浪費続ける豊かな文明は続かず、必ず破たんするだろう。今は縮小社会研究会で活動して健康を考えている。 
 私たちは、戦前も戦後も騙され続けた歴史がある。戦後はアメリカのご都合で民主化を押しつけ、軍備を放棄させ、冷戦になると軍備を持たされた。なぜ騙されるのだろうか。私たちは美しい言葉で騙された。自分の願望に合ったように語られると賛同する。「放射能は危険だ」という嫌なことは聞きたくない。無責任体制で誰も責任を取らない日本の社会。戦争責任も原発事故の責任も誰もとらず、未だにけじめがついていない。皆が豊かさを求め、大量消費が美徳の使い捨て時代。地下資源を使い、子々孫々に迷惑をかけ、喜んで騙され続けている。科学の力の幻想に騙され、解らないことに騙される。科学者も偉そうに噓をつき、そのスポンサーや政治家が威張っている。伊方原発廃止訴訟を専門外だが住民側訴訟団として手伝った。専門家は研究費が出なくなるので協力しなかった。裁判では被告の国側の参考人の原子力安全委員会の最高権威を立ち往生させ、裁判は有利に進み、弁護士は「こんな楽な裁判はない。しかし、国策だからな。」といった。結審後、裁判官すべて入れ替わり判決は、「全面敗訴」だった。日本に三権分立、民主主義はないと思った。これを契機に京都大学を辞職し、科学者をやめた。SCIENCE 科学は分断,部分でしか考えない。全体としてみなければ間違う。一つ一つは正しくても全体として間違っている。頭にCONを付けるとCONSCIENCEつまり良心。良心を忘れてはいけない。福島原発事故は起こるべくして起きた事故とは言いたくないが、止められなかった。私に説得力がなかった。なぜか、人は聞きたくないことは聞かないから。無人の町に「原子力 明るい未来の エネルギー」の看板。私たちは、豊かさを享受してきた。現実におびえず立ち向かうかしかない。危険を知り、何をするか。福島の現実を直視する。無責任な東電と被災者の苦難を思い福島の農産物を食べる。「放射能は嫌だ」だけでは「無責任ではないか、非現実的ではないか」と考えた。現代文明は地球と激突している。人間が横暴になり、今や地球に原生林がない、農地がない状態でもっと豊かにと幻想を抱き、多国籍企業が横暴を極め、TPPを推進する。悲劇への道を暴走している。横暴な文明で壁に激突している悲劇、暗くなる。日本の社会でもすでに前駆的現象が現れている。子供の自殺、老人の孤独死、病気の増加。国民医療費41兆6千億円を超え、出費は100兆円を下らない。病気になると自立性がなく、医者・薬頼みなので医療費が膨張し、いずれ破綻するだろう。年金も破たんし、国民経済は破綻するでしょう。結論は「自分らしく生きる」「自分の命に責任を持つ」「自分の命は人のお陰で存在する」事。豊かな時代になって人間関係は冷たくなっている。「共生共貧」私は40年前に生き方を変えて健康になった。医者や薬に頼らない生き方、生きる力に信頼する。少食、断食、歩く、体を柔らかくする、心も柔らかく、与えられたものに感謝する気持ちが大切。RESOURCEFUL 日本は資源小国でなく緑豊かな国土がある。この緑と智恵、工夫があれば幸せに生きられる。有機農的なくらし。ない物ねだりをしない。祖先から受け継いだ食文化を伝承し、私は原発に反対している。
第3部 パネルディスカッション 「原発のない健康社会を目指して」
 3人のゲスト講師の先生方に当会福原副会長がパネラーで加わり、小山登運営委員長の進行で行われた。各先生方のさらに詳しいお話と最後にまとめを聞くことができた。
会場からは、お子様の体調不良のため東京から関西に避難した若い母親の体験談を発表していただいた。
閉会の挨拶
森 美智代会員が挨拶に代え、 坂村真民氏の詩「あとからくる者のために」を朗読した。
「あとからくる者のために 苦労をするのだ 我慢をするのだ
田を耕し種を用意しておくのだ
あとからくる者のために しんみんよ お前は 詩を書いておくのだ
あとからくる者のために 山を川を海を きれいにしておくのだ
あああとからくる者のために みなそれぞれの力を傾けるのだ 
あとからあとから続いてくる あの可愛い者たちのために
未来を受け継ぐ者たちのために みな夫々自分で出来る何かをしてゆくのだ」